花嫁に読むラブレター
会計も終わり、背負い鞄に品物を詰め込んでいると、いつものように女店主のミリア姉さんが他愛のない話をしだす。まだ三十代前半であるミリア姉さんは、結婚の予定がないと口癖のように呟いていたが、この日も同じようにため息を漏らした。
「マイアはいいわねー。ユン様と結婚するんだって?」
「え……」
手にしていた果物が、ごろりと床を転がる。思いがけない言葉に、マイアの手が滑ったのだ。慌てて拾い、鞄に押し込むように詰め込む。
胸の中に、荒波が打ち寄せているかのようにどきどきしている。
「あ、それとね。秘密にしておいてって頼まれていたんだけど、その果物。私がサービスしたんじゃなくって、ユン様からお代金を頂いていたのよ。マイアが来たらサービスとして渡して欲しいって言われていたの。……本当、羨ましいわー」
カウンターのテーブルに肘をつき、赤茶色の巻き毛を指でもてあそびならため息を重ねるミリア姉さん。きっと何気ない気持ちで教えてくれたのだろう。お礼を言っておきなさい、と仄めかしているのかもしれない。けれど、マイアは知りたくなかった、と、ミリア姉さんに見えないように唇を噛んだ。