花嫁に読むラブレター
2.侍女とマイアの手紙

 馬車を下りた瞬間から、別世界だった。

 アルギスの丘に辿りつくと、屋敷から少し離れた場所で馬車を下ろされ、ユンの隣に並んで歩いた。

 まず、空気の匂いが違う。

 屋敷は丘の一番高い場所に建てられており、下を覗けば海だった。波が岩肌を打ちつけ、浅瀬にはごろごろと大きな岩がたくさん落ちている。湖の透き通った青さとは違い、暗闇を思わせる深さのある青だった。一定間隔で聞こえてくる潮騒が、とても心地よい。まるで心の中の不安を洗い流してくれているようだった。

 舗装されていない丘の上は、履きなれていない靴で歩くマイアには歩きづらかった。何度も躓きそうになり、慌てて大股を開き踏ん張った。それを何度も繰り返すうちに、ユンが無言でマイアの腕をとったのだ。

 その瞬間、マイアの身体がびくりと震えた。

 けれど、動揺を隠し、マイアは笑顔でユンの手を握り返した。

 咄嗟に掴まれた腕は右手だった。マイアの右側に並ぶユンが右手をとるのは至極自然のことで、安堵するまでもない。ただ、思い出したのだ。ステイルが掴んだのは、マイアの左手だったから。
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