BLACK
何が楽しいのか全く理解出来ない。クスクスと笑う"黒"は私の首筋に当てたままの鋭利な鎌で肌を撫ぜた。
嗚呼、刃物が肌を滑る感触ってこんな感じなんだな。とか今の状況で思える私は冷静なのかはたまた緊張の限度を越えてしまっているのか。
「君は、随分と大人しいね」
ーーーー死を前にして、恐怖を感じないのか?
そう囁き微笑した"黒"に「そんな訳ないじゃない」と心の中で毒づく。
どこから出てきたのか分からない、大きな鎌が首に当たっていて、誰が恐れないと言うんだ。怖いに決まっている。
落ち着け、と自身に言い聞かせるように何度も頭の中で呟く。
ここで下手に動いた方が、スパン!、と三流ホラーさながらの結末になってこの世とオサラバになってしまう。
冷静に、"黒"へ問い掛ける。
「貴方は…、何?」
「そういう質問は、誰、と問うものでは?」
「…だって、……人間では、ないみたいだから」
「……まあ、確かに。その通りですがね」
ニヤリ、と口角を引き上げた"黒"はス、と私の首もとから鎌を遠ざけた。
鎌の長い柄を肩に預けるようにして、"黒"は綺麗に、妖艶に凄艶に微笑んだ。
「俺は、人間なんていう弱い存在じゃない」
「魂の回収屋、」
「"死神"、さ」