BLACK
歩道橋の階段を全部下りたところで、誰かが遠くから大声で私の名を呼んだ。
暑さと黒によって支配されていた脳内をリアルへと引き戻し、声がした方へと振り返った。
そこには、こちらに向かって片手を大きく振りながら駆け寄ってくる女子高生の姿。
「椿ー!」
ツバキ、というのは私の名だ。
名を呼んだ友人である彼女は、私の前まで走って来ると乱れる息を整えて笑いかけてきた。
「よかった、追いついたー」
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ。椿ってば机の上に財布忘れてるし!」
「え、嘘」
「不用心すぎるわ」
そう言って、私の黒色の長財布を差し出してくる友人からそれを受け取る。
うっかりと言うよりも、危険すぎる私の間抜けさには自分自身ビックリというか呆れる。
ありがとう、と笑ってもう一度財布を見て思い出すのは。今日初めて挨拶を交わした、あの黒を纏った彼。
そして、恐らく人間ではない彼。