アイドル拾っちゃいました
「ねえ、これ可愛いと思わない?」


 宏美はベッドに横になりながら、さっき買って来た雑誌を眺めていた。手芸の雑誌だろうか。俺にはよくわからないが、ネコの刺繍だかなんだかを見て、「パーシーみたい」なんて言っていた。


「やってみようかなぁ」


「手芸をか?」


「うん。暇なんだもん」


 だろうな。このままでいいんだろうか……

 いや、よくないだろう。この子はこんな狭っちいアパートに閉篭ってるべきじゃない。ヒロミンとして、あの素晴らしい歌とダンスで民衆を魅了すべきだ。それだけの才能があるんだし。何より、そんなヒロミンを俺は見たい。


「なあ、そろそろ……」


 『ベリーズに戻った方がいいんじゃないか?』そう続く言葉を俺は言えなかった。それはつまり今の関係を終わらせる事になり、宏美との別れを意味するから。


「いいわよ」


「え?」


「終わったから、しようか?」


 宏美は雑誌をパタンと閉じ、俺に抱きついて来た。俺が言いかけた言葉を勘違いしたらしい。

 明日はちゃんと話し合おう。そう思いながら俺は宏美を抱いた。記憶に深く刻み付けるように。


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