アイドル拾っちゃいました
 次は新曲のレコーディング風景だが、もういいだろうと思って俺はテレビを消した。宏美の頬を、涙が伝うのが見えたから。


「ファンのみんなの、熱い想いが伝わったかい?」


 宏美の濡れた頬を、指で拭いながらそう言うと、彼女はコクッと頷いた。


「みんなにはまだ適わないけど、俺だってファンなんだぜ。ベリーズの……特にヒロミンの」


 俺がそう言うと、宏美はクスッと笑って俺の胸に顔を埋めた。俺はそんな彼女の髪を撫でながら、耳元で囁やくように言った。


「おまえと会えなくなるのは死ぬほど辛いよ。でも、おまえはこんなところにいちゃダメなんだ。ヒロミンとしてステージに立ち、素晴らしい歌と踊りでみんなを喜ばせないと。もちろん俺だってヒロミンを観たい。おまえだって、本当は歌いたいんだろ? 毎朝走ってるの、知ってるんだぜ?」


「暁……」


 宏美は、俺の背中に回した手にギュッと力を入れた。それが返事なのだろう。


 明後日の土曜は誰もいないところへドライブし、次の日曜に宏美を事務所へ送り届けよう。そう計画を立てたのだが、計画通りには行かなかった。


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