アイドル拾っちゃいました
 その女性に近付くと、女性は立ち上がって俺の顔を見た。


「ヤコちゃん!?」


 面会の女性は、まさかのヤコちゃんだった。思わず大きな声を出した俺に、ヤコちゃんは口に指を当てて「シッ!」とそれを制した。


 「ごめん」と謝りながら周りを見たら、受付嬢が目を丸くしてこっちを見ていた。どうやらバレたっぽい。

 ヤコちゃんに座ってもらい、俺もその向かいに座った。


「びっくりしたよ。小松さんって誰かなと思ったけど、まさかヤコちゃんとは……」


「“小松”は私の苗字なの」


「あ、そうなんだ?」


 知らなかった。川島ならたぶん知ってるだろうけど。


「今日はどうしたの? ま、まさか、宏美に何かあったとか!?」


 不吉な何かを想像し、焦ったが、「ううん、そうじゃないの」とヤコちゃんは言い、俺はひとまずホッとした。


「実は神谷さんに渡したい物があって……」


 そう言いながら、ヤコちゃんはハンドバッグの中に手を入れた。


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