アイドル拾っちゃいました
「おい、時間は大丈夫なのか?」


「え? うん、そろそろ行かなきゃだけど……」


「だったらもう行けよ。元気でな?」


「そんな……。これっきりみたいな言い方しないでよ」


「いいや。これっきりにしよう。もう連絡してくんなよ?」


 俺は、不服そうな明美を追い立てるようにしてアパートから出した。明美は今にも泣きそうな顔をし、俺は気が滅入りそうになった。まるで俺が女を捨てるみたいで。


 明美を送り出した俺は、その足で寝室を覗いた。ねこが俺達の会話を聞いていたんじゃないかと思って。

 ねこは、こっちに背中を向けてベッドで横になっていた。静かに近付いて顔を覗きこむと、ねこは目をつぶって静かな寝息を立てていた。


 聞かれなかったようで、よかった。でも、ねこには知ってほしかったような気もする。俺が明美と別れた事を。


 ねこへの気持ちに気付いたせいか、彼女がめちゃくちゃ愛しく思えた。俺はねこのおでこに掛かる前髪を指で払い、そっとそこへ唇を触れさせた。


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