最後のキス


「ケータイ見んのはマナー違反やと思わん?」


付き合った日、小さな約束を交わした尚樹の声が頭の中に響く。


携帯を見た私。


私が尚樹を裏切ったのか、それとも私が裏切られたのか。




眠る尚樹の唇にそっとキスをした。


その顔で、君は何人の女たちを惑わし、虜にしてきたのかな。




「なあ、サキからキスしてよ」



付き合っている間、一度もしたことない私からのキス。


恥ずかしくて、うつむく私のアゴを軽く指先でなぞり、いつも尚樹からしてくれたキス。





最後の最後だよ。



呟いて私から優しいキスをする。


唇と唇が離れたら、私たちはもう終わり。



愛しい感情も筋肉質で細身の腕に抱かれた尚樹の逞しい身体も


尚樹が私の柔らかい耳たぶに何度もキスをしてくれた記憶もすべて─────。



唇が離れて、私は最後に尚樹の顔を覗き込む。


無邪気な寝顔に微笑んで、

私は部屋を、あとにした。



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