《密フェチ》その牙で犯して
*
そんなこと聞かないでよ。答えるの、癪じゃない。
君は私に覆いかぶさりながら、耳元で「気持ちいい?」なんてことを囁くのだ。
男らしい鋭角的な肉体。浅黒く焼けた肌。垂れ下がる前髪の隙間から見える、どこかあどけなさを残している茶褐色の瞳。
そんな麗しい肉体に抱かれて、感じないはずがない。気持ちいいに決まっている。
8歳も年下の君にまるで手玉に取られているようで、素直に頷けないでいると、君は八重歯を見せてふっと笑った。
ああ、ずるい。
そんなかわいい笑顔を見せないで。
まるで私を骨抜きにする術を知っているみたい。
初めて君に会ったのは、昼下がりの図書館だった。
上段にある本を取ろうと背伸びしていた私の隣にすっと歩み寄り、軽々と取り出してくれた。
「どうぞ」
そう言って軽く微笑んだときに見えた八重歯に、不覚にもときめいてしまった。
「意地張ってるとこも、かわいい」
「年上をからかわないの」
「……そうやってまた予防線を張る」
言葉が出てこなかった。
だって。
そんな無邪気ではいられない。大学生の君とは訳が違う。
「わかってるでしょ?」
「主婦だってこと?」
静かに頷くと、君は小さく息を吐いた。
「今は俺といるんだから。今だけは俺だけを見てよ」
そのまっすぐな視線があまりに鋭くて、背筋がぞくりとした。この青年は、こんな表情もできるのか。
「俺に溺れて」
そう言って、首筋に舌を這わす。
本当は。
溺れてしまいたいと思っている。そのかわいい八重歯に噛みつかれたいとさえ思っている。しかし、理性が邪魔をする。
そんな私の気持ちに気づいたのか、君が密かに微笑んだ気がした。
「本当のこと、言っちゃいなよ」
「なによ、本当のことって」
「もっと乱れたいって思ってる」
そんなことない、と否定する間もなく。
「俺の痕、いっぱい刻み込んであげるから」
そう言うと、君は私の首筋に、そっと牙を立てた――。
fin