舌先に擦過傷


「――ひっ! ちょ、そこ違う!」


ぬるりと耳の穴に侵入してきたのは、疑う余地もなく彼の舌だろう。


彼は私の言葉を聞いて肩を抱いてきたけれど、こんな美味しい状況から逃げる気など毛頭なかった。


熱を秘めたざらつく舌が動く度、粘着質な水音が直に響く度、快感が背筋を突き抜ける。


ああ……もう終わっちゃった。


舌の気配が消えても耳に残る甘美な痺れに、恍惚の溜め息を吐いた。すると今度は耳裏を素早く一度だけ舐め上げられ、フックタイプのピアスが揺れる。


「イテ」


耳元で囁いた彼に濡れた瞳を向けると、くらりと目眩が襲った。


きっとピアスのせいで耳裏を舐めた時に擦り切ったんだ、なんてぼんやり思うけれど。


「……わざとでしょ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」


彼が見せつけるように出した舌先にはより赤い血が滲んでいて、ゴクリと生唾を飲んでしまう。


なんて、なんて、鮮やかで妖艶な赤。いつもより数倍、魅力的。


ダメなのに。
これ以上求めたら、戻れなくなるのに。


惹き付けて惑わせるその赤を、君を、自分だけのものにしたい。



「……今度はどこ舐めてほしい?」


うっとりしていた私は挑発的な笑みを浮かべた彼の唇に、躊躇うことなく指を這わせた。


「私の舌」



その舌が傷付こうが、もう知ったことじゃない。




【END】
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