オリガク! -折舘東学園の日常的(恋)騒動-
「ほんと、油断も隙もねえな」
溜め息をついた虎鉄はだいぶ後退していた彼を睨み、
「先輩がお前ごときの手に負えるわけねぇだろーが。可愛いだけの女がいいなら準ミスオリガクとか他あたっとけ」
と言い放ち、私の手を掴んで歩き出した。
「ちょっと、虎鉄」
「なんすか」
「……準ミスは、可愛いってより、かなり美人な子で、私と真逆なんだけど」
「見たことないんで知らねーっす」
「嘘だぁ。絶対あるよ、目立つ子だもん。バクが私とミーアのことまで知ってたんだから、絶対1回は見たことあるよ」
「俺の目に留まってねーんだから、どうでもいいべや」
「……ていうかいつ来たの? なんで来たの? メールの返事は? 寝坊したの?」
「昼に起きてメールに気付いてめんどくせーから登校した足で先輩のクラス行ったらあの男に呼び出されたって聞いたんで追っ払いに来たんすよ」
すらすらと答える虎鉄は、どこまで行く気なんだろう。別に怒ってるってわけじゃないみたいだし、いいんだけど。
「追っ払いに来てくれてありがとう、セコムン」
「誰が安全安心のセキリュティーだコラ」
彼氏様様だって言いたかったんですぅー。
虎鉄は4階よりさらに上へ続く階段を上り切り、『立ち入り禁止』の小さなサインスタンドを跨ぐ。下の踊り場と同じ幅の小空間には、屋上へ続くドアがあった。
こんな場所あったんだ……初めて来たな。
「飯食ってくれば良かった」
「私はもう食べたよ」
腰を下ろした虎鉄は私の手を引き寄せるから、胡坐を座布団にする形になってしまった。