オリガク! -折舘東学園の日常的(恋)騒動-
昨日、自販機の前でミネラルウォーターをくれた男子を思い出せば、「げっ!」という声に次いで聞き慣れたバクの大笑いが体育館に響いた。
見向けば額を手で覆う虎鉄と、そのげんなりした肩に手を置き、けたけた笑っているバクの姿が。
『げっ』て何よ。それよりサボッてたな?
私同様、片付けに強制参加させられていたはずのふたりは、まさに今体育館に戻ってきたと言わんばかり。
「こりゃゴーレムに感謝しなきゃなあ、トラ」
「ああマジで戻ってきて良かった。……おい、きゅう! まず息しろ!」
きゅう? 名前が官九朗とか?
「同性相手に赤面しすぎなんだよ!」
えっ!? あっ! 本当だスカートはいてるじゃん!
虎鉄に小突かれ「ぶはあっ」と息を吐いた子が、まさか女の子だとは……。よくよく見れば赤いブルゾンの中に着ているのは同じセーラー服だ。スカーフも胸当てもしてないから、一瞥しただけじゃ分からなかった。
身長だって虎鉄とほとんど一緒じゃないの。
「ト、トラッ……ちょ、聞け。目の前でバンビ先輩がしゃべって動いて小首傾げて見上げてきて心臓パーン!っつーか実物マジ可愛すぎるんですけどおおおお!!!」
「うるっせえのや!」
ばしっと頭を叩かれたきゅうちゃんは、
「うるせえとはなんだ!」
と、虎鉄の後頭部を持っていたタブレット端末で殴った。
度肝を抜かれた私は言葉を失い、ハッとしたきゅうちゃんは青ざめていく。