ショコラ SideStory

 厨房から店のほうに顔を出すと、マサがレジのお金を小型金庫に移しているところだった。


「もう客は引けたか」

「マスター、マサさん。お先に失礼します」

「おう、静香ちゃんお疲れ」


 夕方からのバイトの静香ちゃんが浮かれた調子で店を出る。

カラン、カラン。ドアベルもそれに合わせて軽快に鳴った。
じっと見ていると物陰に立っていた男のところへと近づく。

なんだ、知り合いか?



「これからデートなんだそうですよ」

「なんだ。男が出来たのか。中に入って待っててもらえばよかったのに」

「恥ずかしいんでしょ。静香ちゃんだってお年頃ですしね」


お前だってお年頃な癖に、とは思っても言わない。
うちの従業員の中で一番戦力になるのがマサだ。あまり余計なことを言うと調子を崩される。


「最近はいい話が多くていいな」

「マスターだっていいじゃないですか。再婚したばっかりで」

「まあでも俺たちは若くないし」

「若い子さながらのラブラブ度だって、詩子が言ってましたよ」

「ごほっ」


思わずむせてしまう。

確かに、念願の再婚に俺は浮かれてはいる。
でも一応詩子には見られないように気を使ってたつもりだったんだが……あいつ、案外目ざといな。
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