ショコラ SideStory

 一瞬、かすかな鈴の音色が響いた。
これはそろそろと覗き込むような開き方だ。

慌てて店に出ても、中には誰もいない。


「おかしいな、今誰か……」


そう言いつつ辺りを見回すと、暗がりの窓の向こうに康子さんが見える。
いつもの勢いを無くして、心細そうな顔をして佇む彼女を見るのは久しぶりだ。

再婚する前、時折やってきた彼女がよくこんな顔で覗いていた。
入ろうか入るまいか迷っているんだろうな。

俺は急いで入り口に駆け寄り、ドアを開けた。
カランカラン、鈴の音は酷く焦っている。


「康子さん、どうした? 入れば?」

「うん。……まだ居たのね。隆二くん」

「もう帰るとこだった。……でも、入りなよ。今日はケーキが余ったからコーヒー入れる」


康子さんにはいつもの覇気が無い。

何が遭ったか知らないけどどうやら落ち込んでいるらしい。まっすぐ家に帰ろうとしない時も大抵そういう時だ。
普段がパワフルなだけに、元気がなくなると分かりやすい。


「マサくんたちは帰ったの?」

「ああ、ついさっきね」


店内の照明をつけ、カウンターの椅子を勧める。
彼女は腰掛けながらポツリと呟いた。

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