ショコラ SideStory
「詩子……あなたのご飯作って待ってるかしら」
「さあどうかな」
「私は今日は食べてくるって言ってあるんだけど」
「じゃあ多分詩子も外食してるかも。あいつ、俺は料理が本職なんだから自分で作れって言って、俺の分だけだと作ってくれないんだよなぁ」
「そうなの?」
「康子さんの分は作る気満々なのになぁ」
「……そう」
ふふ、と笑う声にもなんだか元気が無い。
どうやら本当に落ち込んでいるらしい。
康子さんのコーヒーは、キリマンジェロ。砂糖は二つが定番。
見た目よりもずっと甘党の彼女は、チョコレートのケーキが大好きだ。
「はい」
「ありがとう。おいしそうね」
そのまま、彼女はコーヒーカップを持つ。
綺麗に引かれた口紅が、うっすらとカップにうつった。
職業柄、人が飲み終えたカップというものはよく見る。
この時間でそんなにきっちり口紅がうつるということは、数時間以内に塗りなおしてるっていうことだ。
一体どこで戦ってきた?
きっちり化粧をしなきゃいけないくらいの大物の仕事に、疲れてしまったのか?
「疲れてる?」
「ううん。別に」
緩慢な動作でケーキを口に運ぶ。
口に含んで味わっているのか、今日は一口一口がゆっくりだ。