ショコラ SideStory

 定休日の午後二時。あたしは両手に材料を持って宗司さんのアパートを訪れる。

ドアベルを鳴らしても出てこないので二回目を押す。

さっき電話して「これから行くね」って言ったのに、居ないなんて喧嘩売ってんじゃないの。

三回目は三連打したけど、まだ出てこない。
不信に思ってノブを回すと簡単にガチャリと開いた。


ちょっとー。セキュリティ感覚どうなってんのよ。
鍵かけてチェーンもつけないと押し入られるわよ。
変な勧誘に捕まったら断れないくせに。


「こんにちは。宗司さんいる?」

「あ、詩子さん。ちょっと待って」


扉を開けるとすぐ見えるキッチンで、彼は何かをしていたらしい。
グレーのTシャツにジーンズ姿の宗司さんが、ばちゃばちゃと水しぶきを上げている。
まな板や包丁をしまってから、おもむろにあたしを招き入れる。


「片付けに手間取った。ごめん」

「どうせ、今から使うんだからいいのに」

「綺麗な方がいいでしょ」


あたしからビニール袋の荷物を受け取って、キッチン台の上に乗せてくれた。
あたしはその間に鍵を閉める。もちろんチェーンも忘れずによ。


「じゃあ、台所借りるわね」

「うん。俺は邪魔しないようにしてるから自由に使っていいよ」


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