ショコラ SideStory

やっぱりあたしじゃダメなのかな。
親父やマサがやった方が、お客様だって喜ぶんじゃないの?

「……っ」

ハサミでプチンと切ったように、あたしのやる気の糸が切れた。
構えていた手はクッキーの上に落ち、まだ固まってないアイシングの文字がぐしゃりと潰れる。
悔しくてそのまま指を押しあてて力を入れると、小さな音を立ててクッキーが割れた。



「詩子さん?」

「……今あたしのこと見ないで」


ココロの中がぐちゃぐちゃで、嫌な気分。
こんな姿は宗司さんに見られたくない。


「どうしたの」


優しい声で宥められると余計悔しい。

何であたしはこうなの。
調理師免許まで持ってるのに、肝心なところは全然上手くできない。


「なんでもないわよ」

「失敗した?」


どうしてこういうときに言葉を選ばないかな。

確かにそうなんだけど! 
間違ってはいませんけど!

今あたしめっちゃ悔しいのに。
はっきりそれを言わなくてもいいじゃないの。


悔しさは苛立ちに姿を変える。


「そうよ! 失敗したの。だからもうやめようかなって思ってたとこ」


慰めようと伸ばされた彼の手を、反射的にはじき返した。
今優しくされるのなんて嫌よ。惨めになるだけだもん。

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