ショコラ SideStory
必死に悔しさをかみ殺していると、宗司さんの顔から優しさが消えていく。
あれ? どうして。
あたしなんか怒らせた?
普段見ることのないその顔に、あたしの苛立ちの方が怯んだ。
「やめてどうする気?」
「え? 親父に……」
「マスターにやってもらうの? 詩子さんホントにそれでいいの?」
良くなんか無い。
だけど、あたしじゃ出来ないんだもん。
小さく首を横に振ると、宗司さんは盛大なため息を一つ漏らした。
「良くないならやろう。練習しに来たんでしょ」
「……」
動かないあたしの手元から、彼はつぶれたクッキーを取り除き、失敗したクッキーのアイシングを削りとって、私の目の前に置いた。
「ほら、もう一回やって見せて」
「う、うん」
いつもより厳しい調子の宗司さんにたじろぎながらも、コロネを掴んで文字を書く。
ああでも駄目。やっぱり字が潰れていっちゃう。
「……なんとなく、緊張して力が入りすぎてるように見える。それと、焦ってる? 詩子さん、早くやらなきゃって思ってるかも知れないけど、ゆっくりでいいんだよ」
「でも」
「これは接客業じゃない。お客さんを待たせてるわけじゃないんだ。落ち着いてゆっくり。やってみて?」
「うん」