ショコラ SideStory
宗司さんの眼差しが、まっすぐにあたしの指先に注がれる。
緊張しながらも、絞る為に力をこめると二の腕の辺りをさすられた。
「もうちょっと力抜いて」
「こう?」
「うん。そのカーブの時に少し腕を上げるといいかも」
「あ」
腕を少し持ち上げられて、今度は綺麗な【あ】が書けた。
「……出来た」
「今の感じ、覚えるまで同じ文字を書いてごらんよ」
「うん」
「練習するだけなら、クッキーはなんでもいいんでしょ? ちょっと待ってて」
そう言って、宗治さんは財布を持って外へ飛び出し、五分後コンビニ袋を持って帰ってきた。
中身は市販のバタークッキーで、すぐさまそれをまな板の上に並べていく。
「ほら、やってみて」
ここまでされて、やれないなんて言えない。
何度も何度も繰り返し、あたしは【あ】の文字を書き続けた。
最初は何度か潰れて読めない字になったこともあったけど、だんだん安定して書けるようになってくる。