ショコラ SideStory
考えてるうちに彼はカウンターから出てきて、私との距離を詰めてくる。
「読んだ。凄い情熱的な文章だ。あの頃の……グルメ雑誌の頃みたいな勢いがあるな」
「……」
「マツが二割増しいい男に見えるのも康子さんの書き方がいいからだ」
「少しは見直した?」
ちらりと横目で伺いながらそう聞くと、隆二くんはなんとも言えない表情で笑う。
「俺の中では康子さんの評価は下がったこと無いからなぁ。これ以上見直しようもないけど。……凄いと思ったよ」
聞きたかった言葉をきけて、頬が勝手に緩んでくる。
ああ、私も単純だわ。
子供みたいで嫌になるけど、でも今日は素直に喜ぼう。
「ふふ」
「……康子さんって」
「ん?」
「たまに殺人的に可愛い」
「はぁ?」
そのまま、腰をつかんで引き寄せられる。
甘い匂いのする彼の、甘い口付け。
「か、可愛いっていわれる歳じゃないけどっ」
「まあそうだけどさ。でも俺にとってはずっと……」
耳元で囁かれた言葉は、今日一番私の心を躍らせる。
『世界で一番カワイイ人だよ』
【fin.】