ショコラ SideStory
修行の成果が実を結び、親父からアイシングクッキー販売の許可が降りたのは六月の十五日。
早速お店の販売ブースにディスプレイする。
「なかなか可愛いじゃん」
「まあね。あたしにかかればこんなもんよ」
マサの冷やかしには乗っかる形で返す。コイツには弱みなんか見せるもんか。
実際の能力的にはマサの方が常に上なのに、態度はあたしの方が必ず上。コレは学生時代からの習慣みたいなもんだ。
「注文来るといいな」
「そうね」
なんて言ったけれど。
いざ注文が来て、お客さんにどんな反応されるのかって考えると怖気づいちゃうわ。
今まではケーキでも何でも作るのは親父とマサだったから、むしろ自信有りげにオススメ出来たけど、今回ばかりは腰が引ける。
やがて開店時間になる。販売の方に来るお客様は、飾られたクッキ―を見てわあと歓声を上げる。
「コレかわいいー。お母さん欲しいよう」
いやん、可愛いこと言うじゃないの。
店内を注文品を持って歩きながら、どうにもレジ前の気配が気になって仕方が無い。
「詩子ちゃん、俺頼んだのアイスじゃないよ。ホット」
「え? やだ。すみません。ホットコーヒーですね。すぐ入れなおしてきます」
「珍しいねー。間違えるの」
いつもは聞き間違えないお客さんのオーダーまで間違えるなんてどうかしている。たまたま、常連客だからそれほど怒られないけど、本当だったら大目玉だわ。