ショコラ SideStory


「まあでも、今回は良かったようだな。……葉山くんの奥さんって再婚なんだってよ」

「え?」


あ、だから。
子供が生まれてはじめてって、二人の子供はって意味だったのかな。


「しかも奥さんの誕生日は元旦那との結婚記念日だったんだと」

「……へえ」

「死別らしくてな。綺麗な思い出だけ残して死んだ旦那だから、邪魔するのも忍びなくてって。この日はいつも自分が独占していいのか迷うんだと」


だから、見えないようにしたかったの?


「……そうなんだ」

「でも嬉しかったんだろうよ。わざわざ今日来たのも詩子に直接礼を言いたかったんだろう」


胸に、再び明かりが灯る。

自分の作るもので、誰かを喜ばせたり感動させたりするのって、すごく気持ちのいいコトなんだわ。
それは今まで私が知ることが出来なかった、作り手だけの妙味だ。

親父がケーキに拘るのが、今になって分かった気がする。



“この感覚を、何度でも味わいたい”



あたしの中に生まれた欲は、簡単には無くなりそうにない。






【fin.】

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