ショコラ SideStory
ふと耳にした塾のお迎え主婦さんたちの会話に、胸騒ぎがした。
「ねぇ、聞いた? 松川先生、塾に漫画持ってこさせたって」
「ええ?」
「四年生の子の授業でですって。何考えてんのかしら。こっちはわざわざお金払って塾に行かせてるのに」
松川先生ってことは、宗司さんのことよね?
塾に漫画?
そりゃまた怒られても仕方ないような事を。
一体何やってるのよ、宗司さん。
「子供は松川先生に懐いてるけど。こんなことがあると続けさせていいか迷っちゃうわ」
なんとなく不穏な気配に、心配になる。
やがて、塾が終了したのか外階段を駆け下りるような音がしたかと思うと、店の入口の鈴がカランカランと激しく鳴った。今の時間は三年生だったようだ。見慣れた子供たちが入ってくる。
「ママ、終わった」
「じゃあ帰りましょうか」
「カスタードケーキ食べたい」
「じゃあお土産に買って帰りましょうね。すみません、お会計お願い」
「いつもありがとうございます」
お会計をして頭を下げる。
『ショコラ』にとってはいいお客さんだ。お茶をしてお土産まで買っていってくれるんだから。
宗司さんの塾に来ている子は、小中学生が主だ。
小学生は学年ごとに曜日や時間を区切っての集団講義。
中学生は個別にテキストを渡して、わからないところを指導していくって形式をとっているらしい。
小学生には特に体験学習みたいなことをさせたいって言ってたなぁ。
あたしにはよく分からないけど、そういえば以前チラシをやたらに持ってきて使ってた時もあったし。
あれは社会で使ったんだか算数で使ったんだか。
時計をちらりと見る。
心配だから見に行きたいけど、もう次の子供たちが来ていそうだ。
「終わるのは、あたしより遅いもんなぁ」
後で電話でもしてみようかって思うけど、電話だと言葉だけだから傷つけてしまいそうな気もする。
「……定休日は、遠いなぁ」
カレンダーを眺めながら溜息をついた。