ショコラ SideStory



「カスタードケーキください」


 一週間後、そう言って100円玉を握りしめた小学生がやってきた。


「はい。ぴったり100円になります」

「ありがと」


お会計を済ませたその子は、ケーキを頬張りながら外へ出て、二階への階段を上がっていく。


「あー買い食いいけないんだ!」


上から小さく響いてくる子供たちの声にあたしの頬も緩む。

 あれから、宗司さんは説明会を開き、問題になった授業についての説明をしたらしい。
それを聞いた上で、辞めた人は一人。残りの生徒さんは皆残ることを決めてくれたと聞いた。

『残ってくれた人たちに、良かったと思ってもらえる授業をしないと』

そう言って笑う宗司さんは、いつもと違ってたくましく見えて、なんだかとても格好良かった。


「詩子、もうそろそろ上がっていいぞ」


厨房に下がったあたしに、親父は顔を上げてそう言った。


「……ちょっとだけ、場所貸してよ」

「ん?」


怪訝そうな顔をシカトしつつ、あたしはクッキ―にアイシングを絞る。


【がんばって】

【ば】がイマイチ上手じゃないけど。これが今の、彼に届けたいあたしの気持ち。

「俺にくれるのか」

「んなわけ無いでしょ。宗司さんによ」

「あんまり甘やかすなよ」

「そんなことしてないわ」


甘やかされてるのはあたしの方だ。
親父にも、宗司さんにも。
好き勝手やっているのに、いつもあたしは許される。

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