ショコラ SideStory
出来上がったクッキーを冷ましている間に、カバンの中から財布を取り出す。
「はい、クッキー代」
「なんのつもりだよ。お前が作ったんだろ?」
「これは私用で使うから。お金を払うの」
あたしだって自立しなきゃ。
そう意気込んで親父を睨む。
「なんか今日は頑なだな」
親父は怪訝そうな顔をして、一度お金を受け取ると再びあたしに向けてそれを差し出した。
「……何のつもりよ」
「俺からも注文だ。クッキーにアイシング入れてくれ。【おとうさん、がんばれ】って」
「……っ、くっ」
なにその屈辱的な文句。
しかしお金を払う以上、目の前のこのおっさんは客なのか?
「わかったわよ!」
お金を財布に戻し、あたしはもう一度クッキーとにらめっこする。
ひどくやり込められた気分に、なんだか悔しくなるけど。
ほんの少しだけ安心もした。
親父の娘で良かった、なんて。
本人には意地でも言わないけど。
【fin.】