ショコラ SideStory
思えば彼女は、俺には勿体無いくらいの素敵な女性だ。
「ねぇ、宗司さん。聞いてるの?」
「聞いてるよ」
喫茶店ショコラの店内はランチの客波が途絶え、人もまばらな様子だ。
余裕が出てきた詩子さんは、コーヒーを入れながら俺に一生懸命話しかけている。その後ろを通りすぎるのは、ショコラの従業員であるマサくんだ。
「詩子、昼メシにすれば。松川さんいるなら一緒に食えばいいじゃん。しばらく俺が店内見るよ」
「ああ、そうね。じゃあ頼むわ。父さん! あたし用にビーフカツサンド作ってよ」
名案得たりとばかりに、詩子さんは手をポンと着いて、自分の分もコーヒーを入れ始める。
「すみません」
ペコリと頭を下げると、マサくんはにこりと笑う。
「いいんですよ。どうせどこかで昼休憩は取らなきゃいけないんですから」
爽やかで優しそうだな、というのがマサくんの第一印象だ。
実際そうなのだろう。お客と接している姿もいつも穏やか。その彼がやんちゃな表情を見せるのは、詩子さんやマスターと話している時ぐらいだ。
マサくんと詩子さんは仲がいい。調理学校で一緒だったという話だけれど、それでどうして同じ所に勤めるようになるのか……っていうのを考えだすと、気がおかしくなりそうだからやめておく。