ショコラ SideStory

 今日は小学五年生の授業日だ。
俺は『ショコラ』の二階にある自分の職場『松川塾』で、プリントの用意をしている。
五年生は四人。算数が急に難しくなる学年なので、そこに重点をおいている。

やがて入ってくるのは女の子が三人と男の子が一人。
女の子たちはいつものようにキャピキャピと楽しそうに騒いでいる。


「ねぇねぇ。先生の彼女。さっきお店の前で男の人に口説かれてたよ」

「え?」

「お掃除してたみたいなんだけど、男の方はケーキの箱持ってたからお客サンじゃないのかなー」


さも楽しそうに話す彼女たちとは対照的に俺は一気に青ざめる。

詩子さんは強い。痴漢も倒せる。
だけどお客相手じゃ遠慮して何にも言えないんじゃないか?


「ごめん、ちょっと待ってて皆」


俺はそう言って慌てて外に出る。カンカンと外階段を駆け下りているうちに、マサくんの声が聞こえてきた。


「……ですから。すみませんね。そういうのプライベートの時間にお願いします」

「お前には関係ないだろ」

「関係無くはありませんよ。従業員ですから。詩子に何かあると困るんです」


『詩子』と名前を呼んだことで、相手の男が怯む。


「ちょっとマサ……」

「いいから詩子は中入れ」

「……すみません。お客様としてはいつでも歓迎してますから」


申し訳ないといった口調で詩子さんが言い、中に入っていく。

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