ショコラ SideStory
男はその一連のやりとりを見て溜息をついた。
「……詩子さん、アンタと付き合ってんるのか」
深い溜息。その男の落ち込みぶりが自然に伝わってくる。
「や、それは違いますけど」
「仕事だもんな。言えないのか。……もういい。詩子さんに謝っておいてくれ」
「はあ」
男はマサくんをみて、納得したようにうなだれた。
そしてもう一度深い溜息をつくと背中を見せて去っていく。
相手がマサくんだったから、あの男は詩子さんの事を諦めたのだろうか。
もしそこにいたのが俺だったら?
そうしたら、あの男はこんな風にあっさり引き下がったか?
「……何勘違いしてんだか」
ポツリと呟いて頭をかいて、マサくんは店の中に戻っていく。
俺は何も出来ずにそれを見送った。
何やってるんだ。
自分の恋人が男に言い寄られて困っているっていうのに、他の男が彼女を守るのを見ているだけだなんて。
とぼとぼと階段を上り、教室へ入ると冷たい眼差しの女子生徒三人が俺を迎える
「先生、ダサ」
十歳女子には容赦というものがない。
俺は反論する気力もなく、「ほら、授業はじめるぞ」とポツリと呟いた。