ショコラ SideStory
*

 それから数日後、『ショコラ』に入ると詩子さんの姿がない。


「いらっしゃいませ」


迎えてくれたのはマサくんで、いつものカウンターの席を勧めてくれる。


「詩子なら厨房にいますよ。呼んできましょうか」

「いえ。忙しいならいいです」


マサくんに注文を伝えると彼はすぐ奥へと入っていく。入れ替わりに戻ってくるのは詩子さんだ。


「宗司さん、いらっしゃい」


左頬にチョコレートが付いている。何か作っている最中だったのだろうか。
詩子さんが営業中に飲み物以外のものを作るのは珍しいけれど。


「詩子さん、ここ」


ほっぺを指さすとキョトンとした顔で俺を見る。


「なに?」

「ついてるよ」

「え? 嫌だ。もっと早く言ってよ」


慌てて厨房に下がっていってしまう。
彼女が去っていた空間を見つめていると、小さな笑いが聞こえてきて顔をあげた。笑っていたのは、厨房から出てきたマサくんだ。


「あ、スミマセン」

「いえ。どうかしました?」

「松川さんの前だと詩子も変わるよなーって思ったらつい」

「……そうかな」


彼女を変えることなんて誰にも出来ないんじゃないだろうか。

もちろん、変わって欲しくもない。
今の詩子さんが大好きだけれど。

俺といて、彼女にいいことなんかあるのかな。

そう思い始めたらなんだか落ち込んできた。

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