ショコラ SideStory


 その夜、電話でデートに誘うと、彼女からは沈んだ声が帰ってきた。


『ごめんね、明日は用事あるの。折角の水曜日なのにごめん』

「そうか。残念だな」


なんとなく、定休日はデートというのが定番になっていた。
もちろん、他の日は仕事をしているので、お互いに何かしら用事が入ることはある。だけど、その用事もいつも一緒に済ませていた。
俺にとっては、詩子さんと一緒に居られるだけで十分だったから。


『ところで、この間宗司さんの塾にきている子が買い物に来たのよ』

「へぇ、誰だろ」

『女の子たち。キャピキャピしてて可愛かったぁ。あたしに憧れてるとか言ってくれたりして』

「ああ……」


 容赦の無い五年女子かな。俺にはいつも厳しいのに、詩子さんには優しいのか。


『宗司さんはいつもあんな可愛い子たちと一緒にいるんだね』

「ところが俺に突っかかってくるときは可愛くないんだよ。怖いくらい」

『そう? 宗司さん、女心わかってないね』


クスリと笑われて、それ以上何も言えなくなる。

俺は一体、何が分かっていないんだ?


一瞬沈黙が走ったが、会話はすぐに詩子さんによって別の方向へと変えられた。
マスターの話、ケーキの話、そして最後には笑い話で終わる。

思えば、彼女はいつも最後には楽しい話をしてくれているような気がする。
だからいつも幸せな気分で眠れるのかもしれない。



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