ショコラ SideStory
「……泣いてたの? さっき」
「別に、泣いてなんかない」
フイと目を逸らして、詩子さんが強がる。
「マスター言ってたじゃん」
「大したこと無いってば、あれは親父があんまりにも大人げなくいじめるから」
「マスターが詩子さんをいじめるわけ無いじゃん。なにかあった? 俺には話せないこと? そういえば詩子さんって俺の前で泣かないけど、俺、そんなに頼りない?」
「はぁ? 何いってんの」
今後はキョトンと、クリクリした目で俺を見て。
「宗司さんといるときに、なんで泣かなきゃならないのよ」
あっけらかんと言い切ったその続きに目を見張る。
「一緒にいると楽しいのに」
……好きで好きで堪らないってきっとこんな気持をいうのだろう。
迷いもなくまっすぐ見つめてくる彼女に、胸が苦しいくらいに締め付けられる。
他の男といる時のほうがお似合いに見える、なんて、悩んでいたこと自体が恥ずかしい。
人の目がなんだっていうんだ。
彼女が俺を選んでくれた。それを素直に受け入れるほうが大事だ。
見合わない自分が恥ずかしいと思うなら、俺が変われるよう努力すればいい。
誰が見ても、彼女の相手でいいと思えるような男に。