ショコラ SideStory


「……泣いてたの? さっき」

「別に、泣いてなんかない」


フイと目を逸らして、詩子さんが強がる。


「マスター言ってたじゃん」

「大したこと無いってば、あれは親父があんまりにも大人げなくいじめるから」

「マスターが詩子さんをいじめるわけ無いじゃん。なにかあった? 俺には話せないこと? そういえば詩子さんって俺の前で泣かないけど、俺、そんなに頼りない?」

「はぁ? 何いってんの」


今後はキョトンと、クリクリした目で俺を見て。


「宗司さんといるときに、なんで泣かなきゃならないのよ」


あっけらかんと言い切ったその続きに目を見張る。


「一緒にいると楽しいのに」



……好きで好きで堪らないってきっとこんな気持をいうのだろう。

迷いもなくまっすぐ見つめてくる彼女に、胸が苦しいくらいに締め付けられる。


他の男といる時のほうがお似合いに見える、なんて、悩んでいたこと自体が恥ずかしい。

人の目がなんだっていうんだ。
彼女が俺を選んでくれた。それを素直に受け入れるほうが大事だ。

見合わない自分が恥ずかしいと思うなら、俺が変われるよう努力すればいい。
誰が見ても、彼女の相手でいいと思えるような男に。

< 197 / 432 >

この作品をシェア

pagetop