ショコラ SideStory


「……詩子さん」


手を伸ばして、抱き寄せる。
少し身を捩った彼女は、俺の胸の辺りで服の匂いをクンクン嗅ぐとクスリと笑った。


「やっぱり昨日無理してでも会いに行けばよかった。泣きたくなるなんて、宗司さん不足だわ」


鼻血でそう。
やばい、殺人級に可愛い。


「昨日はどこ行ってたの?」


彼女を腕に入れたまま耳元に尋ねると、詩子さんはサラリと返答した。


「プレゼント選びに決まってるでしょ……って。しまった。内緒だった」


口元を抑えて、俺を上目遣いで見る。


「プレゼントって?」

「わ、わからないならいいのよ。あたし、店に戻るわ」


さっさと腕の中から出て行く彼女の後ろ姿を見ながら、何か記念日があったかなんて考える。

今何月だっけ。七月か。七夕……にプレゼント交換なんてしないよな。というか七夕もう終わってるし。
海の日も別に祝わないよな。後は地区の夏祭りとか?

カレンダーを一巡するほど見つめた後でようやく思いつく。


「……俺の誕生日か」


来週の火曜日。七月十七日。


“今年こそちゃんと祝うからね”


春の彼女の誕生日に聞いたあの言葉が蘇る。


“詩子さんがどうして俺を選んでくれたのか”


その答えは今でも分からない。
でも、答えなんか必要ないってことは分かった。

詩子さんは俺を好きになって、まっすぐ向かってきてくれる。
それが嬉しいなら、俺は素直に喜べばいいんだ。

落ち込むよりも、彼女にもっと愛情を伝えるべきだ。
それこそ、自分を卑下している暇なんか無いくらいに。


< 198 / 432 >

この作品をシェア

pagetop