ショコラ SideStory
「……詩子さん」
手を伸ばして、抱き寄せる。
少し身を捩った彼女は、俺の胸の辺りで服の匂いをクンクン嗅ぐとクスリと笑った。
「やっぱり昨日無理してでも会いに行けばよかった。泣きたくなるなんて、宗司さん不足だわ」
鼻血でそう。
やばい、殺人級に可愛い。
「昨日はどこ行ってたの?」
彼女を腕に入れたまま耳元に尋ねると、詩子さんはサラリと返答した。
「プレゼント選びに決まってるでしょ……って。しまった。内緒だった」
口元を抑えて、俺を上目遣いで見る。
「プレゼントって?」
「わ、わからないならいいのよ。あたし、店に戻るわ」
さっさと腕の中から出て行く彼女の後ろ姿を見ながら、何か記念日があったかなんて考える。
今何月だっけ。七月か。七夕……にプレゼント交換なんてしないよな。というか七夕もう終わってるし。
海の日も別に祝わないよな。後は地区の夏祭りとか?
カレンダーを一巡するほど見つめた後でようやく思いつく。
「……俺の誕生日か」
来週の火曜日。七月十七日。
“今年こそちゃんと祝うからね”
春の彼女の誕生日に聞いたあの言葉が蘇る。
“詩子さんがどうして俺を選んでくれたのか”
その答えは今でも分からない。
でも、答えなんか必要ないってことは分かった。
詩子さんは俺を好きになって、まっすぐ向かってきてくれる。
それが嬉しいなら、俺は素直に喜べばいいんだ。
落ち込むよりも、彼女にもっと愛情を伝えるべきだ。
それこそ、自分を卑下している暇なんか無いくらいに。