ショコラ SideStory
「……よし!」
気合を入れて、まずは塾内の掃除から始める。
プリントも後でつくろう。その前に、一つだけ。
バタバタと階段を駆け下りて、『ショコラ』の扉を開ける。
もう開店後で客もそこそこ入っている。入り口近くの二人がけの席には、何故か康子さんまでいる。
「あら、宗司くん」
「こんにちは、どうしたんですか?」
「ああ、私はここで取材相手待ってるの」
「お仕事ですか。お疲れ様です」
ペコリと挨拶して、カウンターまで歩み寄る。
「どうしたの、宗司さん」
慌ただしげに伝票と品物をもって行ったりきたりしていた詩子さんが、一瞬動きを停めて俺を見る。
「詩子さん、お昼一緒に食べよう」
「え? でもあたし、何時に休憩取れるかわからないけど」
「分かったら電話して。俺今日はずっと上でプリント作ってるから」
「う、うん?」
「ちょっとお邪魔します」
「え? ちょっと」
接客に忙しい詩子さんに一応の断りを入れて、厨房を覗く。マサくんとマスターが揃ってケーキのアレンジをしていた。マスターの方は俺を見つけると嫌そうな表情をする。
「なんだよ、宗司」
「お話があります」
「なんだ。俺は今忙しい。詩子を泣かすような男と話す暇など無い」
「すぐ済みます」