ショコラ SideStory
厨房を出ると、詩子さんが怪訝そうな顔で俺を見た。
「なに話してたのよ」
「いつかの話」
「なにそれ」
「詩子さんにもいつかちゃんと言うよ」
それだけを言って、俺は塾に戻るために店内をまたいだ。
すると、横を通るときに康子さんに腕を引っ張られる。
「一皮剥けた?」
「え?」
「なんでもないわ。いい顔になってる。詩子を頼むわよ?」
にっこり笑う康子さんに、胸を張って答える。
「任せて下さい」
「上出来」
康子さんは、安心したように笑った。
どれだけドジでも、どんくさくても。
俺には一つだけ自信が持てることが出来た。
あんなにカワイイ彼女が、俺のことを好きでいてくれる。
それってかなり凄いことだ。
*
そして、七月十七日。俺は朝一番にもらった彼女からのプレゼントであるポロシャツを来て教壇に立つ。
「ハッピーバースデー先生!」
その日、塾の女の子たちは、こぞって『ショコラ』のメッセージクッキーを持ってきた。
「今人気なんだよ。告白クッキーとして使うのが流行りなの。あ、先生には違うから! ただのメッセージだけど」
確かに、俺に渡されたクッキーには、【おつかれぇ】とか【頑張れ】とか、なんだか義理チョコに似た雰囲気の言葉が書かれている。