ショコラ SideStory
「香坂くん、その気無いの?」
「さあ。よく分かりません。香坂さんはお仕事も忙しいので」
「そりゃこの歳になればそれなりに責任ある立場になってるもの、忙しいわよ。でも、それだけ人生経験積んでるってことでしょ? 忙しさの対処法くらいもう掴んでるわよ。それは言い訳にならない」
「だったら、私と結婚したくないんですかねぇ。……私、お嫁さん向きじゃないもんなぁ」
ポソリと告げて、森宮ちゃんはテーブルに突っ伏した。
昔の彼に『俺は家庭に入ってくれる子が良い』って言われて振られたこと、まだ気にしているのかしら。
「そんなわけ無いでしょう。今の森宮ちゃんを見て好きになったんだもの。仕事してるあなたが魅力的だったのよ」
「私も仕事好きです。辞めたくない。でも、私子供も欲しいんです。できれば、三十五歳までに一人産みたい……」
「うん」
ようやく来たな、本音。
私は彼女の背中を撫でながら、寄り添うように肩を並べる。
森宮ちゃんはいい子だ。
負けず嫌いで、しっかりしていて、やり手。
そんな彼女が本音を出すのは、酔っ払った時だけ。
そして彼女の彼氏である香坂くんも、隆二くんの話を聞く限り器用なタイプでは無いのだろう。
彼いわく、『香坂さんが本音をいうのは、聞いて欲しい相手がいないか寝てる時だけ』らしい。
どうすんのよ、それじゃ何も進展しないじゃないの。
ぶっちゃけ、どうやってこの二人が付き合うようになったのか、まったくもって想像つかない。