ショコラ SideStory
だからこそ、今日こそははっぱかけようと思って森宮ちゃんと飲みに来たのだけど、逆に落ち込ませちゃったかしら。
「康子さんみたいになりたいなぁ」
消え入りそうな声で、彼女がポソリと呟く。突っ伏しているから表情は見えないけど、もしかして泣いてる?
「どうして? 私は森宮ちゃんの方がステキに見えるわ。仕事もきちんとしてるし、特に最近は出してくる企画も斬新だし。いつ世代交代してもいいなってくらいよ」
「でも、私結婚したいって思われない。同じキャリアウーマンでも、康子さん二度も同じ人からプロポーズされてるじゃないですか」
「一度目は半ば無理矢理じゃないの。デキ婚だもの」
「それでも羨ましいです。理性失うくらい愛されたってことじゃないですか」
「香坂くんはあなたが大切だから理性失えないのよ」
「そんなの分からないです。私ホントは香坂さんが考えてることよく分からない……」
スン、と鼻をすする音がする。
ああもう、今のセリフを香坂くんに聞かせてやりたい。
大体、三十代の女と付き合う時は、結婚の意志があるかないかは明確にしておくのがマナーってもんよ。
隆二くんに聞いたところによると、香坂くんの年は私の一つ下。
ってことは四十七か八のはず。
ソッチのほうがよっぽど焦る年じゃないのよ。
それとも、そこまで行ったらもう焦らないの?
子供が成人するとき自分が老人だとかは考えないの?
「ん、んー」
気が付くと、森宮ちゃんが寝落ち体勢に入ってしまっている。
やばいやばい。
そろそろ切り上げて送っていかなきゃ。
「すみません、精算」
近くの店員に精算とタクシーを頼む。
フラフラの森宮ちゃんを支えながら外に出たのは、そこから二十分後だった。