ショコラ SideStory
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 店内にはゆったりとした音楽が流れ、マサがコーヒー豆を挽いているから店内には香ばしい匂いが漂っている。ただいま開店十分後。まだ客も少ないこの時間は比較的暇ではあるのだが。


「父さん、お客様」

「は? 誰だ?」

「香坂さん」


詩子にそう言われ、顔をあげる。こんな時間に来るってことは今日は遅番か。
クリームを混ぜていた作業を一旦止め、手を洗って厨房から出る。


「はいはい。どうしたんすか、香坂さん」


若干面倒だなと思いながら見ると、香坂さんはカウンターで詩子が入れたとおぼしきコーヒーをすすっていた。


「いや、コーヒーを飲みにな」

「相談あるんじゃないんですか? 雑談なら付き合いませんよ。今俺ノッてるところなんですから」

「ちょ、待て、相本」


さっさと戻ろうとすると必死な顔で引き止め始める。


 香坂さんとはかれこれ十数年の付き合いになるが、時々思う。この人は、仕事以外では本当に面倒くさい、と。

俺は面倒には巻き込まれたくないんだよ。
そのまま逃げようとすると、何故か詩子とマサから合いの手が入った。


「いいじゃないの、父さん。まだお客さん殆どいないんだし」

「そうですよ。先ほどのお客さまの注文はでてますし、今何もやることないじゃないですか」


こいつら、なぜ香坂さんの味方をする。

自然に舌打ちがでてしまい、他のお客に聞かれなかったかと周りをキョロキョロする。

止むなし。香坂さんの相談にのってやるか。
俺はカウンター越しに香坂さんと向かい合った。
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