ショコラ SideStory
「なんですか? どうせ彼女関係でしょう。また怒らせたかなんかしたんですか?」
「またってなんだよ。綺夏(あやか)が俺を怒ったことなんて未だかつて……」
無い、とか言うつもりだろうか。
付き合う前に、散々この店で待たせて彼女を泣かせたのをまさか忘れたとは言わないだろうな。
「彼女、香坂さんに言わないだけじゃないですか」
「じゃあお前には言うのかよ。つか、なんでお前そんなに綺夏の肩持つわけ?」
ああ、そして段々と喧嘩腰に。
相談に来たんじゃなかったのか。
俺は、わざとらしく溜息をつく。
香坂さんはこれでたじろぐはずだ。予想通り、眼の前の男は一瞬動きを止め、クールダウンするようにもう一口コーヒーを含む。
「肩持ってるわけじゃないですけど。彼女、どうやら康子さんの後輩らしいので」
「康子さんって……再婚した奥さんか。お前って未練たらしいヤツだなーと思ってたけど、まさか念願叶えるとはなぁ」
俺はじろりと香坂さんを睨んで、眼前にタバスコをちらつかせた。
「これ入れられたいですか」
「バカ、止めろ。それにしても、そうか、世間は狭いなぁ」
「そうですね。そういえば一度一緒に食事したいって言ってました。今度四人で行きましょうよ」
「食事ったって俺、夜はほとんど仕事して……」
「シフト無視して出るからでしょう。いくら責任者だからって休みくらいきちんと取らないと、家庭はもてませんよ」
「……やっぱりそうか?」