ショコラ SideStory
声に勢いがなくなる。
相談内容がなんとなく思いついたので、俺も声のトーンを落とした。
「結婚予定は?」
「まだない」
「まだってことはいつかはしたいんでしょう?」
「もちろん。でも……なんて言ったらいいか分からないんだよ。綺夏も俺も不規則な仕事だし、一緒に暮らそうと思ったらそれなりに覚悟がいるだろ?」
「はあ」
顔を突き合わせて話す俺達を、詩子が不審な眼差しで見ている。
いやいや、俺達は怪しくないぞ?
「でも、彼女三十代でしょう。待ってるんじゃないですか?」
「普通の女ならそう思うけどさ。綺夏は仕事もできるし、まだまだ若々しいし、綺麗だし」
「……ノロケに来たんですかね」
段々、聞いているのが馬鹿らしくなっていく。
俺の呆れた空気を察知したのか、香坂さんは「イヤ違う」とかぶりを振って真剣な顔で俺を見つめた。
「昔俺が詩子がデキて相談した時、香坂さん偉そうに『お前が守りたいものを守ればいい』とか言ったじゃないですか。あの勢いで『一緒に暮らしたい』っていえばいいじゃないですか」
「あー……人の事だと何とでも言えるもんだな」
当時の俺はちょっと感動したのに、今のセリフでかなりドン引きだ。
もう厨房に戻りたい。しかし、香坂さんの結末の出ない相談は延々と続けられる。
「俺もう四十七だし。しかも初婚だぞ」
「初婚はどうでもいいでしょう」
「いやいや、良くないぞ。あちらの親御さんにも、この年まで結婚出来ない男だなんて心証悪いだろう」
「香坂さん見た目で得してるから大丈夫です」
「すぐ子供欲しいとか言ったら、綺夏に引かれるかもしれない」
「そんときゃそん時ですよ」