ショコラ SideStory
どうやら本気で疲れているらしいく、康子さんにのってくる様子はない。
「ちぇ」
俺は軽く舌打ちをして、彼女のウエストに手をかける。
ホックを外した瞬間に彼女の手が首に伸びてきて、蔦が絡まるように俺に巻き付き、唇に唇を着地させた。
「……やっぱ自分で着替えるわ」
「脱がしてあげるのに」
「流石に恥ずかしい」
彼女は俺の体を支えにして立ち上がり、おもむろにクローゼットに向かった。
そして後ろを向いたまま、不機嫌そうな声をだす。
「ねぇ」
「ん?」
「香坂くん、どうにかなんないの?」
その声音には呆れた様子さえあって、何故か俺までビクついてしまう。
「どうにかしようよ。そのために食事」
「そ、ならいいわ。お風呂に入ってくる」
下着姿にパジャマを手に持って、彼女はするりと部屋を出て行った。
残るのは彼女の余韻。ベッドの上にも、クローゼットの周りにも先ほどまで彼女がいた形跡がありありと残る。
一度失ったからこそよく分かる。
「ささやかなものこそ幸せだよな」
俺はひとりごちて、ベッドに倒れ込んだ。