ショコラ SideStory


「じゃあ、お先に失礼します」


早く上がらせてもらえた、と言うよりは追い出された感たっぷりで、暗くなった夜道をとぼとぼと歩く。

イマイチ家に帰りたいとも思えない。俺だって孤独というわけではないのに。


 彼女の和美とは、もうかれこれ一年半ほどの付き合いになる。当時大学一年の終わりだった彼女は、今は三回生。今までは暇だと言っていた夏休みも、今年は研究室に出入りするようになったせいかいつも忙しそうだ。


『もうね、わからないことだらけで大変』


 そう笑う彼女に、俺はいつも上手い受け答えが出来ない。
正直、俺にはその出だしくらいでチンプンカンプンだ。だから大学の話はあまり聞きたくない。劣等感ばかりが高じて、彼女に上手く優しくできなくなる。

所詮俺は、専門学校上がりの菓子職人。
教員を目指すような和美とは、釣り合いが取れないんじゃないかなんてことを、堂々巡りに考えてしまう。
 

「ハックション」


 吹き付けてきた風が冷たく、くしゃみが一つ飛び出す。
今は九月。半袖は着ているけど、夜の風は秋のものへと変わろうとしている。


「……もうフラッペも終わりだな」


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