ショコラ SideStory
昨年詩子が考案したフラッペも二年目を終える。口コミで広まったのか、今年は去年よりも注文数が多かった。
それも憂鬱の原因ではある。
フラッペだけじゃない。
詩子が担当するアイシングクッキーは『これで告白すると成功する』という眉唾ものの噂が立ったせいもあり、一種の名物化している。
詩子自身もこの仕事にやたらに意欲的になってきて、マスターにとっては喜ばしいことだろう。
俺だって、同僚としては嬉しい。
だけど、嬉しいだけでは済まない感情も腹の中では蠢いている。
俺は昔から手先は器用で、スポンジのキメの細かさも絞りだすクリームの造形も思った通りに仕上げることが出来た。だからこそ、スイーツに関しては完璧主義のマスターにも気に入られてるんだろうと自負している。
自信だってあった。
少なくとも詩子にだけは絶対負けるはずがないと。
詩子が創りだすものは、いわゆる造形の美しさは劣る。だけど、あいつにしかないアイディアが必ずあり、それが人の心を掴む。
すごいと思った。その反面愕然ともした。それは俺の弱い点も浮き彫りにしたから。
――俺は、独創性に欠けるんだ。
そう気づいたた途端、俺はなんだか自分の腕に自信が持てなくなってきた。
レシピ通りのスイーツを作れる職人なんていくらでもいる。俺の代わりなら、広い世の中を見渡せばきっと腐るほどいるんだろう。
こんなモヤモヤした気持ちを誰かに聞いてもらいたいと思うのだけど、語るにぴったりな相手がいないときたもんだ。
マスターに言えば気を使わせるだけだし、詩子にだけは絶対に何があっても言いたくない。
こんな情けないことは、和美にも言いたくない。
なんとなく暗闇のループに紛れ込んでしまって、俺の口から漏れるのは溜息ばかりだ。