ショコラ SideStory
「そういえば」
思い出して、携帯を取り出す。和美にメールを出していなかった。
【仕事終わったよ】
和美が、仕事終わりにメールを送って欲しいと言い出したのは、半年くらい前だ。
学生と社会人ということで、お互いに流れている時間が違うなと感じてはいた。それを俺はどうすることも出来ずにいたけれど、和美は自分なりに改善策を考えたらしい。
とにかく相手の時間を意識する。何が出来るわけではなくても。
その為に、一日の仕事や講義が終わったら報告しよう、ってものだ。和美の講義終わりの時間、俺は大概忙しいから返信さえ満足にしてやれないのだけど、それでもいいと彼女は言う。
【お疲れ様。私は今家でご飯中です】
駅につく頃に返事が届いた。ってことは飯に呼び出すことも出来ないわけだ。
【飯がまだだったら一緒に、】と途中まで打ち込んだ文章は、送信することなく破棄する。
こうなると呼び出す理由も失い、身動きが取れなくなる。
【今度の水曜、暇?】
水曜日は定休日だ。最近まともなデートもしていないから、たまにはゆっくり会いたい。
考えている内にすぐ返信が来る。
【講義が五限まであるの。六時くらいからなら会える】
しかしその返事は、期待とは違ったもので。
【じゃあ飯一緒に食おう】
一応週一のデートだけはしたいと約束は取り付けたけれど、なんだか気分は乗らない。
おかしいな。好きなんだけど。
和美のことは本当に好きなんだけど。
だけど今はなんだか気分が晴れない。