ショコラ SideStory

出てきたムースは三層仕立てになっていて、一番下に黄色のスポンジ生地、次にピンク色のいちごムース、その上に薄くミルクのゼリー層があって、クリームといちごの飾り切り、それにミントで飾られている。

ミルクゼリーをのせるってのは今まで見たことなかったな。
あまり固くなく、ジュレと言えそうな程の柔らかさでムースの触感も邪魔しない。これはいいな。


「マサくんって研究熱心なんだね。なんかマスターに似てるよね」

「そうですか?」

「うん。俺甘いモノが好きだからさ。結構昔からいろんなところのケーキ食べてきたけど、同じ店であれだけ色んな食感のあるケーキが揃ってるのは珍しいなぁって思うよ」

「……そう……ですか?」


食感か。
確かに、マスターの作るものはクリームでさえも一つ一つ違う。

マロンクリームはクリの風味を残して少しざらついているし、ショートケーキのクリームはしっかり角をたたせる。逆にゼリー系に重ねるものは緩めに作ってある。

俺はそれを、忠実に真似ることのできる店員だ。
だからこそ重宝されている。


「……でも、俺はマスターみたいにはなれない」


クリスマスの度に、オリジナルケーキを考案するマスター。
何ヶ月もそれで頭を一杯にしているのを何年も見てきた。

尊敬しているし、あんな風になりたいと思う。

でも俺にあるのは技術だけ。
必死に考えた新メニューもどこかでみたようなものばかりで、最近ではアイデアすら出てこない。

血は争えないのか、オリジナリティがあるのは詩子の方だ。


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