ショコラ SideStory
「マサくん?」
「俺って、……一体何ができるんでしょうね」
ポツリと弱音を吐き出してしまったのは、松川さんの人柄のせいか。
それともそれぐらい参っていたのか。
話しだした俺の愚痴を、松川さんは遮ることなく聞いていた。
時に頷いて、時に穏やかに微笑みながら。
……詩子がこの男に惚れたのも、分かるような気がする。
彼は“否定”をしない人間だ。
どんな弱さもどんな汚さも、まずは受け入れる。だからこそ、俺はこんなに自分をさらけ出してしまうんだ。
「自分では分からないのかもしれないけど、マサくんの技術はそれだけで凄いことだよ? 詩子さんなんか、いつも羨ましいって言ってる」
「詩子が?」
「そう、悔しいって。自分の思いつくものを、形にする技術が足りないって良くゴネてる。俺には同じようにクリームを混ぜたり盛り付けたりしてるように見えるんだけど、全然違うって。もしかしたらマスターより凄いかもって言ってるよ?」
「マスターより?」
「うん。マサくん、俺はね。高い技術力ってのもオンリーワンなことだと思う。だって、他の人には出来ないんだから。詩子さんとマサくんが二人で力を合わせればマスターより凄いものができるかもしれないって思うとワクワクするよ。……まあ、ちょっとヤキモチも焼きたくなるけど」
ははは、と笑って頭をかく。