ショコラ SideStory
「オンリーワン……か」
「うん。十分自信持っていいことだと思う。それでも何か自分だけのものって思うのなら、誰かのためにと考えて作ってみればいいんじゃないかな」
「え?」
「マスターのケーキは、康子さんの為に作ったものらしいよ。建前ではお客様の為にって言っているかもしれないけど、漠然と大人数のために作るってすごく難しいと思うんだ。だから、一番大切な人をイメージして作るのが一番近道なんじゃないかなと思うんだよ」
「誰かのため、か」
確かに、俺はオリジナリティにこだわりすぎていて、今まで見たことのないアイデアばかりを探していたような気がする。
そうじゃなくて、誰かのために。
……例えば和美の為に、何かを作ることが出来たなら。
「……ありがとう、松川さん」
「いえいえ。俺もケーキ食べれたからラッキーだったよ。さっきの……先輩で立海さんっていうんだけど、ケーキ食べませんかって言ったら『いらん』って一掃されちゃってさ。口寂しいところだったんだ」
本当にケーキ好きなんだな、と笑ってしまう。
「前の職場の方ですか?」
「うん。塾経営のノウハウとかをこっそり教えてもらってるんだ。前から面倒見てくれていた先輩で、今も凄く助けられてる」
「いい先輩ですね」
「うん。感謝してる」
同業者なのにそんなふうに親切にして、商売成り立つのかって思うけれど、そうさせてしまうのが松川さんの人柄なのか。