ショコラ SideStory

講義が終わったのか、奥にある建物から一気に人が出てくる。
電車から人が吐き出される時とは少しイメージが違い、拘束時間からの開放感が強いのか皆一様に顔がほころんでいる。皆が学生だからその一体感は半端ない。

それでも、建物から離れるにつれて集団として認識されていたものが、個々に戻っていく。

その中の一人に、和美がいた。

彼女は女友達と話しながら、何故か苦笑いを浮かべている。
心から楽しそう……というのとはちょっと違う。

何かあったのかもしれないが、和美は不満があっても笑うから本当のところは分からない。


彼女はいつも穏やかにいろんな人の言葉を受け止めながらそして静かに傷ついたり、喜んだりする。
一つのことを納得するのにものすごく時間がかかって、回り道も沢山する。

俺はそれが、ずっと気になっていたんじゃないか。

俺と付き合う前、彼氏と『ショコラ』に来ていた和美はいつも微笑んでいた。
だけどそれは、時に困っていたり、彼の言動についていけずに悲しんでいたり、それでも一緒に居るのを格別に喜んでいたり。

そんな小さな表情に違いに気づいて、いつしかとても愛おしくなったんだ。

時間がかかってもいい。
重たくてもいい。
流行りにも乗らなくていい。

焦る必要もないよ。
和美はただ、自分の気持ちをしっかり見つめていればいい。
自分が納得できる時まで、もがき続ければいい。

俺はそんな君が、世界で一番素敵な女の子に見えるんだ。


「……重めのチョコレートがベースで、表面はパイ生地で、かぼちゃペーストをねりこんで」

どっしりとした重たいケーキ。パイ生地を使うから手間もものすごくかかる。
だけど一度堪能したら、きっと忘れられない味になる。

彼女を表すならば、そんなケーキだ。


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