ショコラ SideStory


「マサさん?」


俺に気づいた彼女は、目を丸くして友達に手を振って走りだす。
まっすぐに俺を見て、驚きの中に喜びをにじませて。


「どうしたの? 大学に来るなんて珍しい」


たかだか数十メートル程度の距離を、息を切らせて走る君。


「……迎えに来たんだ」


不安定になっていた自分の気持ちを。君への愛情を。


「ホント?」

「うん」

「どうしても早く会いたかった」


君は俺のオンリーワンだから。


離れていきそうだった気持ちが、磁力を増した俺の心に集まってくる。

彼女は真っ赤になって俺を見上げて、今度は作ったような顔ではない、本当の笑顔を見せる。


「いつか、和美にケーキをプレゼントするから」


ポツリと言うと彼女は小首を傾げる。


「いつも食べさせてもらってるよ?」

「そんなのより、もっと特別なものを作る。……だから」


彼女の耳元に口を寄せ、恥ずかしいセリフをポトリと落とす。


「和美も頑張れ」


顔が熱くなるのを感じながら唇を引き締めると、彼女の丸い瞳が俺をとらえた。


「……うん!」


今日一番の笑顔は、俺の心に刻まれてずっと励まし続けてくれるだろう。



 結局、その後の食事もいつもどおりに過ぎていったのだけれど、心はいつもより近くにいたような気がする。
俺は相変わらず、大学の話にはうまい受け答えなど出来なかったし、彼女も俺に相談をしてくることなどは無かったけれど。彼女はいつもよりずっと上機嫌で、ずっと笑い続けていた。


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