ショコラ SideStory



 それから時が過ぎ、今は十一月も終わり。
 最初はハロウィンまでにはできればと思ったケーキは、実際には試行錯誤を繰り返し、もう冬に片足を突っ込んだこの季節になってようやく完成した。


「うん。旨いぞ。濃厚だな」

「そうね。つか、よくこんな手の込んだもの作るわよね。かぼちゃ入ってるからハロウィンに間に合えばよかったんだろうけどね。通常のメニューに加えればいいんじゃない? 父さんのとも違っていていいわよ」


マスターと詩子からの言葉に、ようやくホッとする俺。
いそいそと二つ分を箱に入れると、詩子がニヤニヤ笑いをしながら近づいてくる。


「なぁにぃ? 和美ちゃんと食べるの?」

「ああ」

「あら素直」

「たまにはね」

「ハイハイ。マサたちはケンカ一つしないものね。羨ましいことです」


半ばやけっぱちのように詩子が言い、俺はそれを苦笑で受け止める。

こんな言い方をするということは詩子は大方松川さんと喧嘩したんだろう。
俺からすれば自分の気持ちをスパッと伝えることのできる詩子がとてもうらやましいけれど。

俺と和美がケンカ一つしなかったのは、お互い衝突することを避けていたからだ。
付き合いが長くなるにつれ、踏み込むのを恐れるようになっていった。

でもこれからは、ちゃんとぶつかり合おう。
でなければ互いの気持ちをいつしか見失ってしまうだろうから。

手始めはこの俺の気持ちをさらけ出したたった一つのケーキだ。

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